村の外れの砂地。
普段は何も無いその場所に、十数人もの村人達が、輪を描く様に集まっていた。
男達は皆輪の中央を向いて、興奮した様子で声援を送り、女達は事ある毎に悲鳴と嬌声をあげた。
みんなの視線の先には、サマリとナージフの姿。
今しも二人は、小さな火花をあげて刃を交わし、飛び退る。
サマリはナージフから貰った短剣、ナージフも使い慣れた半月刀を構え、お互いを一瞬も見逃さないように見合った。
ナージフが傭兵を勤める隊商が村を訪れる度に、この手合わせは行われた。
最早、恒例行事となって、村人達は集まってくる。
手合わせがはじまって、既に四半刻が経過している。
いつのまにか辺りは薄暗くなり、星が見え始めた。
村から離れた場所の為、辺りはすぐに暗くなることが予想された。準備の良い村人の数人は、松明を持って砂地を照らした。
大きな月が、近くのオアシスの水面をを照らす。
空気は澄み、カラッとしているとはいえ、こうも動き回った後ではナージフの額から汗が止まる事を知らない。
攻撃はまるで当たらない。
大事なサマリに実際当たったら困るのだが、それでも手応えが無い。
単調な繰り返しが続き、流石のナージフも疲れてきた。
「隊長!もう一息!」
野次馬の中から、若い傭兵が声を上げた。
今年初めてナージフの隊に志願してきた若者で、他の者達と違ってこのオアシスの村を訪れたのも、2人の手合わせを見るのも、初めてだった。
しかし、もう一息なのはどちらの方なのか。
周りの誰もが疑問を差し挟むところだ。
この目の前のか弱そうな少女が、まさか自分の憧れの隊長と渡りあえるほどの腕前だと仲間から聞いた時、若者はすぐには信じられなかった。
果たしてそれは本当なのか、非常に興味があって、実際こうして二人を前にして、若者は驚きを隠せなかった。
数日前に突如彼の目の前に登場し、ナージフに飛びついた少女。
仲間が、あの二人は親子のような、師弟のような関係なのだと教えてくれて、再び驚く。
サマリは、笑顔で彼に挨拶してくれて、とても人懐こそうに見えた。
仲間達とも仲良く話す様子で、彼も二言三言、会話をした。
サマリは少し高い、小鳥の囀りにも似た声で、よく笑い、よく飛び跳ねた。
まだ子供っぽいところはあるけれど、単純に可愛いと思ったし、サマリを見ているのは飽きなかった。
続く
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さて、今回出てきた脇役の傭兵の若者役、4〜5回くらい登場して名前もつけてあげたので、誰か探しに行こうと思います。